働き甲斐と生き甲斐について(5)

6. これからますます社会崩壊が進む恐れがあるからこそ

地球の緯度の差異と地理学的文化人類学的な差異と天然資源分布の差異に基づき、諸国民はそれぞれの国民経済を歴史的に形成してきました。

こうした国民経済の差異に対して、経済活動は本質的に国境を超えて発展します。現代から向こう50年先まで、グローバリズムとローカリズムの相克は激化を深めるでしょう。

7. これからの時代を切り拓く会社経営の在り方を思う

厳しい経営環境下では、全社一丸の会社をつくらねばなりません。鉄の規律で統制された精鋭集団をつくる必要があると考えがちです。

確かに、私達、人間はあたかも一本の木に咲く花・葉・幹・根のような役割機能分担を果たすことで、給与や報酬といった生活の糧を与えられます。私達個人は生まれ育ち社会生活を終えると、役割を果たした枯葉のようにやがて土に戻る存在です。私達は、私と相手、私と家族、個人と組織、個人と社会とが、互いが互いを織り成す複合的な関係性の産物であり、社会的な分業と協業の恩恵の下に収入を得て社会生活の基盤を与えられ、各個人の生活が成り立っています。従って、団結を乱す不平不満分子はこの際、退職してもらいたいという思いを経営者は持ちがちです。

しかしながら、そうした戦前の家長制度的・集団主義的・ファシズム的な思考パターンでは、現代の個人尊重主義で育ってきた若者は、反感とサボタージュをもって抵抗しますので、上手くは行かないでしょう。

個と全体との相互関係性を認識し、愚痴や経営者側からの説教ではなく、社員とのより良い関係性を構築するために、各社員の自発的な目覚めを促すために、自分は何を為すべきかを考え行動できる経営者自身のリーダーシップが問われています。ここに取り組むことが、これからの企業経営者の使命であると私には思われます。

(了)

働き甲斐と生き甲斐について(4)

4. 家族の中で、働く喜びを語り合える家庭をつくりたい

働く中での自己実現の喜びを親子で対話できる関係性を構築したいのです。そのためには、親の側が、働く中での自己実現の喜びについて、きちんとした哲学を確立しておくことが必要であると思います。

私達の会社の社員さん達が、働く中での自己実現の喜びを、自分の言葉で、それぞれの子供達に語れるような職場をつくりましょう。周りの人々の役に立っている実感、周りの人々から支えてもらって生きている実感、周りの人々と共に生き合っている実感を、日々感じられる中で生き合うことが人間の幸せであると思うのです。普通のありふれた仕事、地道な、まるで食うためだけに働いているに過ぎないと思われる職業に就いているとしても、その仕事がどのように人々の役に立っているかを生き生きと子供に語れる私達でありたいと思うのです。働く中での自己実現の喜びを自信を持って語れる哲学的、社会学的な力量を私達は養いたいと思うのです。

5. 働くことの価値についての考え方が、社会崩壊から私達を救い出す

価値観の多様性を認め合うことがこれからの人類の普遍的価値に成りつつある現代では、特定の思想・宗教・倫理の普及高揚運動では、世の中をよくしていくことは不可能です。価値観の多様化を認め合う現代においては、頭の中と文章と論争で優劣を競い合う思想・宗教・倫理では人々の合意形成は不可能です。

異なる価値観の人々が、等しく合意できる共通の基盤は、職業を通して役立ち合うことで、世の中と各人の暮らしが成り立っているという事実です。すべての人々が、「自分が食えれば良い。」というレベルを超えて、自分の仕事の社会的価値を問い、より良いものに改善していくことで、人類社会はより良いものに進化して行くと思われます。

(つづく)

働き甲斐と生き甲斐について(3)

  1. 働き甲斐を実感できる職場に恵まれる幸せ

冒頭で述べたの「なんとか仕事にありつきたいというケース」で働いている人々が世の中の大半でしょう。とすれば、そうした普通の人々の幸せは、どうやって実現できるのでしょうか?

私は、企業経営者こそが、そうした幸せをこの地上にもたらすことができると思うのです。

働いている社員が、働く中での自己実現の喜びについて、自分の言葉で活き活きと語り合える、実感できる職場が与えられならば、その幸せには大きなものがあると思うのです。

「みんなが知らない、小さな会社で俺は働いているけれど、俺の働いている会社には、素晴らしい社長がいるんだよ。俺は、小中高、成績もスポーツもぱっとしなくて、一度も褒められたことはなかった。そんな俺がいつの間にか仕事を出来るように育ててくれて、自分でも気づかなかったものを引き出して、誉めてくれる。だから、この社長のためなら、頑張りたいと思えるんだ。なんてことのない仕事だけれど、お客様が困っていたことを解決することに役立った時にとても感謝してもらえたんだ。自分もいい仕事しているんだなぁと嬉しくなったよ。」と胸を張って、にこにこと自己紹介するような社員が、たくさん育つならば、それはその経営者の喜びとなり、その経営者の幸せにつながると思うのです。

自社の社員がその社員の日常の生活感覚で自分の役割に自信と誇りをもって就業できる職場をつくる。働く中での自己実現の喜びについて、社長と幹部社員と一般社員が具体的に実感し合う、共有し合える職場を豊かに創り出せるならば、その経営者は、偉い宗教家・教育者・政治家よりも、はるかに素晴らしい尊い人生を生きていると私は思うのです。

(つづく)

働き甲斐と生き甲斐について(2)

2. 戦後の経済社会構造の激変と個人尊重の考え方に流されて

「あなたの好きなことをすれば良いんだよ。郷里に居る必要もないよ。あなたが興味の持てる、好きな仕事に就きなさい。そのために、パパとママは応援するよ。」と言って、現代の親は子育てをしています。

はたして、それで子供は本当に幸せに成れるのでしょうか? 物わかりの良い同意に留まって良いのでしょうか? 人間の幸せとは、他の人を出し抜き、他の人よりも高所得を得て、名声を得る事でしょうか?

数千人に1人の才覚に恵まれた子供ならば、確かにそれで才能を全面開花できるでしょう。

しかしながら、普通の人にはそうした競争至上主義の自己実現は不可能です。競争至上主義の考え方では、普通の人々は幸せと縁遠い生涯を送るしかなくなります。

中学や高校の同窓会に出席した子供が、一流企業や官公庁に就職した友達から、「君はどこなの?」と尋ねられて、「いや、たいしたとこではないから、いいよ。」と言葉を濁し、同窓会に行きたがらないこともあるでしょう。

(つづく)